何かを選択するとき何かを失っているという視点

前回に引き続き、機会費用について考えてみましょう。

何かを選択するとき何かを失っているという視点

結論として「選択することで何かを失うという意識は気づきを与える」ということです。

早速ですが、機会費用の概念についてあなたは理解していますか?
以下の問題に心のなかで答えてみてくださいね。

あなたはエリック・クラプトンのコンサートを聴きに行ける無料のチケットを手に入れました(ただし転売することはできません)。他方で、ボブ・ディランの公園が同じ時間帯にあり、それがあなたの次善の選択肢です。こちらのチケットは40ドルしますが、あなたならディランの公演がどんな日にあろうとも、50ドルまでは支払ってもよいという気持ちがあります。また、どちらのコンサートを聴きに行くとしても、他には費用が一切かからないとします。このとき、クラプトンの公演に行くことの機会費用は、どれだけでしょうか。

A:0ドル、B10ドル、C:40ドル、D:50ドル

アメリカの経済学者199人に聞いた機会費用の正解は?

アメリカの経済学者199人に聞いたところ、回答はほぼ均等にばらけました。
A:50人(25.1%)、B:43人(21.6%)、C:51人(25.6%)、D55人(27.6%)

同じ問題を358人の大学生に尋ねた所、正解を選んだ学生は経済学をまだ学んでない学生では17.2%、経済学を学び終えた学生の7.4%でした。

 

この問題を作問した経済学者である、
フェラーロ(Paul J. Ferraro)とテイラー(Laura O. Taylor)の答えはBでした。

普通、経済学者、経済学を学んだ学生は正答率が高くなるはずです。
しかし、経済学を学んでない学生ではBを選ぶ学生が多かったにも関わらず、
経済学を学んだ学生ではBを選ぶ割合が下がってしまいました

面白いですね。
なぜ、勉強すればするほど間違えるのか考えてみましょう。

機会費用には「量」と「価値」の視点からみる2つの定義がある

前回の記事で機会費用とは、
「最大利益を生む選択肢とそれ以外の選択肢との利益の差」と説明しました。

複数ある選択肢の内、同一期間中に最大利益を生む選択肢とそれ以外の選択肢との利益の差のこと。最大利益を生む選択肢以外を選択する場合、その本来あり得た利益差の分を取り損ねていることになるので、その潜在的な損失分を他の選択肢を選ぶ上での費用(cost)と表現している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%9F%E4%BC%9A%E8%B2%BB%E7%94%A8

でも、実感として自分がその選択をどう評価しているのかというと難しいですよね。
また、自分でもその価値が本当にあるのか不安ですし、不確実性もある。
数字で評価しきれないということもありえます。

だから、機会費用という概念は納得しにくいですし混乱させられます。
前回はその混乱についてすこしご紹介しました。

経済学の機会費用という概念に納得いかない人のための入門経済学

選択するということを考えたときに多くの場合は二者択一、
機会費用では一番の選択と二番目の選択についての選択について考察します。

どの選択肢もあなたの前に迷うほど浮かぶのであれば、
どちらを選択しようがあなたにとって非常に良い経験になるはずですが、
あくまで今回は単純化した選択の話ですから、そんな壮大な話にはなりません。

機会費用に量と価値という2つの定義があるというのはどういうことでしょうか。
先程のクラプトンとボブ・ディランのライブチケットの話を思い出してください。

量の機会費用は単純明快です。「クラプトンに行く代わりにディランを諦める」、
つまり「クラプトンを選ぶことの機会費用はディラン」というわけです。

一方で価値の機会費用は、ディランの価値をどうにか評価しなければなりません。
それは比較することがとてもむずかしいという問題をはらんでいます。

そこで、よく用いられる概念が「貨幣」というわけです。
ここで一つの見方は「ディランには50ドル支払っても良いと考えているので、
クラプトンを選ぶことの機会費用は50ドルである」と考える視点です。

もう一つは、「ディランの市場価格は40ドルであるので、
クラプトンを選ぶことの機会費用は40ドルである」と考える視点です。

これらはどちらも納得できますよね。クラプトンのライブに行くことによって、
前者は「自分が最大50ドルの価値があると考えている選択を諦めている」
後者は「市場価格40ドルの価値があると考えられている選択を諦めている」わけです。

じゃあ、なぜ冒頭のクイズの答えは10ドルになるのでしょうか。
この回答に至るには機会費用というよりは会計的な計算が必要です。

まず、自分は50ドルの価値があるディランを諦めますが、
このチケットは市場では40ドルと評価されているので、40ドル支払うことになる。
なので、50−40=10ドル分がディランを選択する純価値となります。

クラプトンを選ぶことでこのディランを選択したときの10ドルを捨てるわけですから、
このときの機会費用は10ドルという計算になるわけです。
このように、価値という視点で機会費用を見るとその見方は複数あることが分かります。

機会費用は何かを選択する際に何かを失っているとシンプルに考える

私は選択が苦手な人間でした。
何かを選択することで何かを失ってしまうことを過度に恐れていたからです。

選択は必ず「どちらにするか」という問題を扱ってますが、
実はこの問題の大前提にあるのは「選択肢が明確に選択されている状態」なのです。

なぜこんなことを話すかというと、選択が苦手な人は多くの場合、
明確に選択肢を絞ることができていないことが多いからです。

だから、実践的に機会費用という概念を扱う際には、
「機会費用とは選択したときに失うものとして考えれば良い」のです。

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結婚は一人の選択だけでは達成することができないので厳密には複雑ですが、
人は何かを選択すると、その他の同等の選択はすることが難しくなります。

世の中にはその人以外に替えの聞く人がいないからこそ運命の人と結婚するのです。
この意味において、希少性があるからこそ選択せざるを得ないと言えます。
つまり「機会費用とは選択の際に諦めたもの」であると言えます。

ここにおいて、すでに希少なものだからこそ、選択することで手に入れるわけなので、
その価値について再度議論することはあまり意味がないと言えます。

だからこそシンプルに「諦めた量」こそが機会費用であり、
Aさんと結婚したから、Bさんとは結婚できなかった、
クラプトンを取ることでディランを失うというシンプルな事実を意識すべきなのです。

何かを選択することの機会費用を恐れるのは誤り

あなたは何かしらのライブに行きたくて、特に予定は無かったとして、
セールスマンに「チケットを買いますか?」と聞かれる際には、
「ライブに行く」「ライブに行かない」という2つの選択肢を検討します。

これは、そもそもライブに行きたいのですからライブに行くという選択肢を取ります。

次に「ディランとクラプトンどちらが良いですか?」と尋ねられたら、
どちらが良いかはあなたにしか決めることができません。好きな方を選ぶのです。
ここでは、ディランとクラプトンの価値についてはこれ以上論じることができません。

決められないから「行かない」という選択肢も一つの答えではありますが、
価値という基準で選ぶ、つまり機会費用を測るということをすることで、
面白い発見や気づきが得られることもあります。

価値判断する基準は常に「自分は好きか嫌いか」という一点に帰結すると思います。

ちなみに腕の立つセールスマンが購入をすすめる際には「いるかいらないか」ではなく、
「AとBだったらどちらが良いですか?」という提案の仕方をします。
これは「購入しない」という選択肢を暗黙のうちに消してしまっているのですね。

迷っている場合において、少しは欲しいと思っている気持ちが無いわけでは無いですから、
選択肢の絞り込みをすることで決めやすくしてるのです。

選択するというのはとても疲れることです。
日常的に私達は選択肢を限定してその中で選ぶことによって省エネしているのです。

「ただより高いものはない」というのは無料のようで無料ではないということわざですが、
無料のサービスを享受する時間に別のことをできたかもしれませんし、
お金を稼ぐことができたかもしれないという機会費用の話をしているとも考えられます。

また、現金を手元に持っておくということも一見当たり前のようですが、
お金を借りれば金利がつくように、お金を貸し出せば利息が付きます。

つまり、現金を持っているということは融資や投資することによって、
得られる利子を失っているということでもあるという視点から見れば機会費用なのです。

淺野 忠克「機会費用概念をめぐる最近の議論」, アジア太平洋討究,35,243-253 (2019-01-31)

Business Journal, 「24種類と6種類のジャム試食、多く売れるのはどっち?人はなぜそれを買うのか?」https://biz-journal.jp/2015/11/post_12222.html

 


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