Mäkynen, Eero, and Oskari Vähämaa. “Uncertainty, Misallocation and the Life-cycle Growth of Firms.” Aboa Centre for Economics Discussion Papers 146 (2021).
企業間の資源配分は効率的か?
本研究では、不確実性と税のようなミスアロケーションによって生じる再配分を分離した静学的な再配分の測定法を開発した。フィンランドの企業レベルのデータでは、不確実性が事後的な再配分の大部分を占めており、企業年齢に依存した強い減少傾向を示している。これらの観察結果を理解するために、我々は、新しい企業がその生産性を学ばなければならない企業成長のライフサイクルモデルを設定した。我々のモデルはデータの顕著な特徴を一致させ、我々のモデルが我々の会計的アプローチに沿った特質的な歪みを示唆していることを示した。我々の定量的な結果によると、不確実性は生産を38%抑制し、非効率化は生産に26%のマイナス効果を与える。
不確実性・ミスアロケーションの問題とは何か?
資源配分の問題に関する測定法に関する論文である。資源配分の問題とはなんだろうか、これは経済学においては「生産性の高い企業が生き残り、生産性の低い企業が退出する」ということで表現できる。
生産性の高い企業は多くの人材や資源を効率的に利用していると考えれば、これらにより社会全体に付加価値が生まれ、経済全体が成長することとなる。
経済市場では一般的にはそれぞれの企業がしのぎを削る競争を行っているので、一定の条件において効率性は確保され、結果的に企業の資源配分は最適化される。
世界で最も市場競争が激しい国といえばそう、アメリカを思い浮かべるだろう。
これまでの経済学研究においてもアメリカの企業間資源配分はインドや中国と比較して効率化されていることが明らかになっているという。((Hsieh and Klenow, 2009))しかし、まだまだ自由競争がある米国においても資本や労働力等を再分配することで生産性は改善されるであろうこともまた示唆されている。
さて、ここでなぜ不確実性が取り上げられるのだろうか。この不確実性というのは企業が直面する需要に関する不確実性である。例えば2020年の新型コロナウイルスによる外食産業へのマイナスの影響はそれまで予期できなかった不確実性である。
こうした事業環境が大きく変化してもなかなかその産業に集まっている資本がすぐに他の産業に移動するというわけではないのは容易に想像がつくだろう。もちろんその間にケータリングサービスやお弁当サービスなどを展開して外食から中食へ業態をシフトしている飲食店もある。こうした自主的な企業が生存するための動きは経済学的に見ると、動学的に最適化されていると表現することができる。
静学的な意味での効率性の測定とは?
企業間配分の効率性を分析するためにはどういうデータが必要だろうか?
当然であるが経済調査データを用いる。こうしたデータは当然ながら、「2019年の工業統計調査」とか「2018年の産業統計データ」といったように特定の期間のデータである。この意味において静学的であるということである。
不確実性がどのように資本配分に影響するかを調べた研究というのは世界各国で行われている結構よくある研究である。付随してこの不確実性がある市場の競争とどのように影響しているかという分析を加えることもある。
不確実性の測定には事務所レベルの収入生産性の対数値の対前年差について産業レベルの標準偏差をとって表している研究がある。((競争、不確実性、および資源の非効率配分-RIETIディスカッション・ペーパーhttps://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/17e071.html))
投入された資源が最大限に活用されているかと言う問題
総産出額の決定を理解するためには、総産出額の全要素生産性を決定する要因を明確に把握することが最も重要である。Restuccia and Rogerson (2008)は、投入要素の非効率な配分(isallocation)が全要素生産性に深刻な影響を与えることを示している。
このチャネルの実証的な関連性を評価するために、Hsieh and Klenow (2009)は、企業レベルのミクロデータを用いて労働と資本の限界生産物を測定するという間接的なアプローチを行っている。
限界生産物の分散が、少なくとも米国のベンチマークを超える部分については、ミスアロケーションを反映しているとすれば、投入要素の再配分によって全要素生産性とアウトプットが大幅に改善する可能性がある。しかし、生産者間の投入要素の非効率な配分とは必ずしも直接関係のない、限界生産物の分散を生み出す要因が他にもある。
フィンランドの企業を対象とした資源配分の研究
この論文ではフィンランドのほぼ全ての企業を対象としたデータセットにおいて、Hsieh and Klenow (2009) スタイル(以下、HK)の収益の非効率性の変動の57%が不確実性によって説明されることを示した。
ミスアロケーションの間接的な指標である税のような歪みの変動は,全体の変動の13%を説明している。不確実性と再配分を切り離すために、我々は、企業が生産性(または需要)を知る前に投入物を選択すると仮定する。
さらに、企業は特質的な収益の歪みにも直面している。したがって、我々の会計フレームワークでは、企業の予測誤差の変動が大きいため(不確実性)、収益の歪みの変動のため(誤配分チャンネル)、あるいは両者の共分散のために、事後資源が非効率的に配分されているように見える。
企業年齢を条件とした分解を行ったところ、年齢に依存して不確実性が減少する傾向が強く見られた。予測誤差の分散は、新規参入企業から10年経過した企業に移ると半分以上になる。
この論文では異なる産業と企業年齢について分解することで結果の感度を調べた。不確実性のレベルは産業や年によって異なるが、不確実性はやはり事後的な再配分の最も重要な要素である。我々のモデルの主な特徴は、企業年齢に依存した不確実性、凸型の調整コスト、税のような歪みであり、これらはすべて資源配分の効率を低下させる。
まとめ
ちょっと面白そうだったのでチェックしてみたがマクロ経済学への理解が薄く理解が十分にできなかった点は反省である。しかし、市場の資源配分に関する研究はかなり日本でも盛んに行われているようで、少し調べただけでも論文が出ていた。
企業経営と経済は関連の多いものもある反面で実務的な経営と経済学との距離は極めて遠いと感じている。(経営学と経営実務もかなり遠いが)しかしながら、経済政策を受けて企業の行動は変化する。また、希少な資源である資本や人材といった生産要素をいかにして効率的に使い、利益を生み出すかについては経営者の仕事である。
経済学によって明らかにされた事実を分析することは有意義であるし、市場全体の効率性を改善するために経済学によって明らかにされた事実が政策的に活用され、なんらかの変化を生み出すための政策として実施され、それらの影響を受けて経営者の行動が変化していく可能性についてはゼロとは言えないだろう。
Competition, Uncertainty, and Misallocation
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/17050010.html
(ノンテクニカルサマリー)https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/17e071.html
ミスアロケーションと事業所のダイナミクス
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11173300_po_r112_08.pdf