経済学

ヨーロッパにおける総生産性の低下:企業のバランスシートからの新しい証拠

「ヨーロッパにおける総生産性の低下:企業のバランスシートからの新しい証拠」というEuropean Investment Bankのワークペーパーを紹介する。

Maurin, Laurent, and Marcin Wolski. “Aggregate productivity slowdown in Europe: New evidence from corporate balance sheets.” (2021).

欧州では企業の資金調達課題が金融危機後の回復を緩やかにさせた

Olley and Pakes (1996)によって提案された生産性の分解を利用して、我々は欧州における金融危機後の生産性の回復が、過去の上昇局面と比較して比較的緩やかであったことの背景にある金融要因の役割を分析する。

まず、部門レベルの生産性をトレンド成分と配分効率成分に分解するためのOLS(最小二乗法)整合的なフレームワークを提供する。次に、この手法を拡張して、企業レベルの交絡因子がセクターレベルの配分効率成分に与える影響を推定する。

2004年から2017年までの欧州における生産性の変化を説明する上で、金融レバレッジが重要な役割を果たしていることを明らかにした。

第3に、北欧と西欧に焦点を当て、信用条件へのアクセスのために、生産性の潜在力が十分に発揮されなかったことを示した。

具体的には、担保のボトルネックを軽減することで、2014年から17年の間にこの地域の生産性成長を促進する金融レバレッジの効果を2倍以上にすることができることが示唆される。

企業にとって資金は必要不可欠であるが金融危機が生じて信用取引が不安定になると、資金的に体力の乏しい企業は資金繰りに窮することとなり、結果的に生産性拡大のための投資は縮小する。

結果としての経済全体における生産性の回復力が妨げられることになり、金融危機後の回復、生産性成長は滞ることになる。この研究では(正しい理解かはわからないが)欧州におけるサブプライムショック以後の金融危機において、必要な資金調達が十分でなかったことが回復を緩やかにさせたと結論づけている。

経済危機下にとるべき政策としての資金調達手段の拡大

この論文では企業の債務超過、エバーグリーンローン((ローンの存続期間中、または指定された期間中に元本の返済を必要としないローン。エバーグリーンローンにおいて借り手はローンの存続期間中、利息の支払いのみを行う。))、財務制約のいずれかの問題に陥りやすい企業が生み出す分配効果をコントロールして、配分効率の要素に対する財務レバレッジの貢献度を推定している。

結論として危機の年には、配分的な生産性の伸びはほとんどが債務超過問題によって妨げられていたが、危機の後には、担保の利用可能性の指標に例示されるように、生産性の向上は金融制約によって閉じ込められていたことがわかった。

企業レベルの生産性の分布が担保のレベルとは無関係であるならば、2014年から17年の間に西欧と北欧において、負債が配分効率の成長を促進する上で2倍以上の効果があったかもしれない。この結果は興味深い政策指針となる。

企業が資金調達、つまるところの金融的制約に直面することにより、生産性の向上が妨げられたとすれば、こうした金融危機後の素早い回復のためには、なるべく企業が資金制約に陥らないたために資金調達手段を拡大する。特に負債による財務キャッシュフローをプラスにすることができれば企業は将来に向けた投資活動を促進しやすいと考えられる。

負債による資金調達がより積極的に実行されれば、生産性の成長は2倍以上の効果があったという結論は興味深い。

社会的には生産性が高く、担保力の低い企業への資源活用が望ましい

またこの論文では総生産性レベルの分配的側面の関連性を強調している。

部門全体の技術が生産能力を支える支配的な力であることは間違いないが、成長率における配分効率の役割を無視してはならない。なるべく資源を活用するためには社会全体で資源配分の効率性や企業の新陳代謝を促すことが重要である。

これは政策的には参入障壁の低減やより効率的な破産制度など、参入・退出プロセスの改善を目的とした政策であり、これが望ましいことは明らかであろう。

企業が資金調達に問題を抱えていたために、生産効率の伸びが鈍化した可能性については、この証拠は、生産性は高いが担保力の低い企業(ベンチャー企業)が、利用可能な外部資源を十分に活用して市場シェアを拡大していないという結論を示している。

このことを念頭に置き、担保関連の金融制約を緩和するための公的介入は、資源のより効率的な配分に弾みをつけ、外挿することで全体の生産性成長を促進することができる。本研究は、Melitz and Polanec (2015)((Melitz, Marc J., and Sašo Polanec. “Dynamic Olley‐Pakes productivity decomposition with entry and exit.” The Rand journal of economics 46.2 (2015): 362-375.
https://scholar.harvard.edu/files/melitz/files/melitz_et_al-2015-the_rand_journal_of_economics.pdf))が提案したダイナミックOlley-Pakesにつながるものであろう。

このOLSによる枠組みをダイナミックOlley-Pakesに組み込む明確な方法はないが、退出入率をコントロールすることで、総体的な生産性の成長における金融の役割について、より正確な推定値が得られたかもしれない。

同様に、金融セクターの役割をより正確に把握するために、データの入手可能性に応じて、資本や流動性の指標などの銀行の指標を含めることもできるだろう。

RELATED POST
翻訳 »