タックス・プランニングとは?
多国籍企業による租税回避は、積極的なタックス・プランニングとも呼ばれ、企業の利益から支払われる法人所得税(CIT)の最適化を行う。
こうした租税回避は、税制上の優遇措置や抜け穴などの合法的な手段を利用するものであり、所得の過少申告などの違法な取り決めを意味する脱税とは区別する必要があることは重ねて指摘しておきたい(Kirchler, Maciejovsky, and Schneider2003)。
こうしたタックス・プランニングはどのように検討されるのだろうか?
世界的に知られているような一部の多国籍企業には税務部が置かれており、ここにタックス・プランニングの担当者が在籍していることがある。また、世界的な会計事務所のコンサルタントがこうしたアクティブなタックス・プランニングについての知恵を提供している。
また、そうであっても細分化された国際税務の専門家が助言することは一般的である。税務業界紙であるInternational Tax Reviewでは世界的な税務サービス提供者である、会計事務所、法律事務所、経営コンサルタント事務所について定期的にランキング付けや表彰を行っている。
特に米国の企業はこうしたタックス・プランニングに関しては非常に力を割いている。
連結決算として現れる当期純利益を高めることにより、グループ全体で資金流出を防ぎ、決算をよく見せることができる。当然、この当期純利益は投下資本に対してより高い効率で回収することを目指す投資家を惹きつける一つの指標になる。
積極的なタックス・プランニングは、文字通り形式的には合法といえるものの、倫理的には疑問視されている。これは法律の意図する目的に反るためである(Knuutinen 2014)。
OECDは、国境を越えて行われるこの現象を、2つの要素で構成される利益移転とより正確に表現していると指摘している(OECD 2015)。
- 第一に、多国籍企業は、利益を生み出す活動が行われている法域から利益をシフトさせるような取り決めを行う
- 第二に、これらのシフトされた利益は、より低い税率で課税される
つまり利益移転とは、文字通り高税率国から低税率国へ利益を移動させることである。
いわゆるタックスヘイブンと呼ばれる国は、この低税率国であり、多くは産業を持たない小国が企業を誘致するために独自の税制優遇措置を講じ、法人を呼び込むことで、他国で稼得している利益を呼び込むという有害な租税競争を引き起こす(European Commission 2021)。
過小資本と借入移転(debt shifting)
過小資本や借入移転は、一般的には多国籍企業や国際投資家が債務の取り決めを利用して、課税対象となる利益を法人税の税率が大幅に低い国にシフトさせる租税回避の一形態と理解される(OECD 2017b)。
このような利益移転は前回の記事でも触れたように、税務上利息として支払う費用は課税対象となる一方で、別の国で受け取る利息収入については非課税または低税率であったことから可能となっていた。
この過小資本は、最も研究されている租税回避の方法の一つであり、その適用に関する広範な経験的証拠が存在する(OECD 2017b; Ruf and Schindler 2015; Finér and Ylönen 2017)。
この過小資本によりフィンランドの税損失は、数億から10億ユーロ、すなわち企業収益の12%と推定されている(Tørsløv, Wier, and Zucman 2020)。
利益移転は、国際的な税制の2つの柱である「独立企業間価格原則」と「分離事業体原則」によって促進される(Finér and Ylönen 2017; OECD 2013)。
独立企業間価格というのは、「当該国外関連取引と同様の状況のもとで、独立第三者間において同種の取引が行われた場合に成立すると認められる価格」((朝日税理士法人 独立企業間価格とは?~「独立企業間価格」は移転価格税制における最重要概念~https://www.asahitax.jp/knowledge/520/))と定義される。
多国籍企業というのは一つの法人ではなく、通常複数の国にまたがり個別の法人格を持つ。そこで同一の多国籍企業に属する個々の企業は、相互の取引において独立企業間価格を使用し、個別に納税義務を負う。
しかし、これらの原則は、多国籍企業が低税率の法域に登録されたグループ企業で利益を計上するインセンティブを引き起こし、租税回避を促進する。
ほとんどの国では、一般的な租税回避防止規則(GAAR)や利息控除制限ルール(IDLR)など、この種の租税回避行為に取り組むためのさまざまな租税回避防止規則を設けている(OECD 2017b)。
法人税の失敗と利益移転は社会福祉を損ねる
こうした企業による利益移転によって、法人税収が減少することは、国が予算を公平に調達できなくなることを意味し、社会福祉を損ねる(Reisch 2020)。
タックスヘイブンと呼ばれる少数の小国は、この現象から利益を得ていますが、他の国は、これらのヘイブンの有害な税務慣行によって財政主権が損なわれている(Clausing 2021; IMF 2019; OECD 2013; Tørsløv, Wier, and Zucman 2020)。
途上国は法人税収入への依存度が高く、予算を増やせないと成長と福祉を生み出すチャンスが損なわれるため、特に懸念されている(Gaspar, Jaramillo, and Wingender 2016; OECD 2020a)。
医療、教育、インフラを公的に提供することは、これらの国の発展に必要です。現行の税制の抜け穴は、利益移転が少数の多国籍企業にとって非常に有利であるものであることから、市場の失敗を引き起こしていると指摘されている(欧州委員会2017b)。
例えば国内で営業活動を行っている地域密着型の競合企業があったとする。
しかし、彼らは生産から販売までのすべての活動を国内で行っているが故に、利益移転のような取り決めの恩恵を受けられず、競争上の優位性を得ることができない。
だからこそ租税回避のための抜け道が少なく、幅広い課税ベースを備えることが、公正な競争を支え、その結果として経済成長をもたらすことと一般的に理解されている(欧州委員会2015; Rixen 2016)。
特に「グループ内の資金調達により、個々のグループ企業のレベルでの負債レベルを容易に増大させることができることはよく知られている」(OECD 2017b)ことから、利益移転を防止するためには、効果的なIDLRが必要である。
これまでの実証研究では、IDLRの重大な有害な結果はいずれも観察されていない(Harju, Kauppinen, and Ropponen 2017; Schindler and Ruf 2015)。したがって、効果的なIDLRは公共の利益に貢献していると考える。
日本では所得金額に比して過大な利子を支払うことを通じた租税回避を防止するための過大支払利子税制と合わせて過小資本税制が適用される。
今回も前回に引き続き下記の論文を読み進めていきながら理解を深めた。
Finér, Lauri. “Who generated the loopholes? A case study of corporate tax advisors’ regulatory capture over anti-tax avoidance legislation in Finland.” Nordic Tax Journal (2021).