当たりをつけるために勉強する必要がある
自分は勉強が嫌いでした。なぜやらなければいけないのかということすら考えたことがありません。とにかく言われたとおりに問題を解いていました。
勉強するということはこれまでいろいろな人が考えてきたこと、そして科学的な成果や知識を自分に取り込むことです。別に誰かが研究してわかりきっていることなら、自分が知らなくてもいいと思うかもしれません。
しかし、今になると勉強することの意味が分かってきました。
なぜ勉強が必要なのかというと「無駄なことをしないためです」。
誰かがすでに発明した物をもう一回発明してしまうことを「車輪の再発明」と言います。確かに知っていれば自分が頑張る必要がなかったかもしれませんが、自分で考えた結果としてやり遂げるという意味において素晴らしいことだと思います。
ただ、いつ死ぬかわからない中で例えばですがあなたの目標として「お金持ちになりたい!」と思っているのに、人がすでにやったことをやっても仕方ないですよね。
それではどうやって人がすでにやったことを学んで、かつその上で自分のアイデアを実現化させるのでしょうか。
例えば、スピーカーを開発するのに必要な知識は物理学を中心に電気工学や数学、そして物を形にするための加工手法や組み立てのスキルです。
これらの知識を身につければ、音がちゃんとなるスピーカーを作ることができます。これは物理的な事実です。
ただ、スピーカーには目的があります。それは「使う人にとって一番求めてる音を出すこと」です。それは心地よく音楽を聞けなければならなかったり、耳の遠い人にもちゃんときこえやすいものでなければいけません。
そうすると、電気工学だけではなく、人間に関する知識、つまり耳に関する生理学・医学的知識や音響心理学といった人に関する知識があると良いですよね。物理的な音の伝達効率ばかりを考えていたら実は聞いたときに必ずしも良い音だと思う人が少なかったりすることはよくあることです。
つまり、その目的をよく考えたときに最初から関連する知識を網羅して何かを作り上げるのと、一部の知識だけを用いて作るのとでは、時間や同じ時間でのクオリティが変わります。
こと、多くの学問やビジネスに於いては、最初から「ハズレ」を知っていて、ある程度の「当たり」を仮説として立てることが出来るかどうかは、短い人生の中での成功可能性を飛躍的に上げることにつながるのです。
幅広い知識を手に入れることは勉強の一つの意義
では、なんでもすべて勉強する必要があるのかと言うと、そうではありません。目的として何に取り組むのかによってどこまで勉強をすべきなのかは変わってきます。
あなたが最先端の技術をなんでも知っている人になりたい場合、その分野の研究だけを勉強すれば、間違いなくその分野の知識は誰よりも優れたものになります。
でも、最先端の技術を開発する技術者や学者として切り開いていきたい場合、その分野の研究だけを勉強することは最初の一歩にしかなりません。
JAXAのイカロスという宇宙ヨットを考えてみましょう。
イカロスのような太陽帆を持った宇宙船を作るのに必要な知識は、宇宙工学や航空工学であることは間違いないのですが、その太陽帆をどうやって宇宙まで折りたたむのかを考えるには折り紙の考え方が参考になりました。
大きいものをどうやって小さく運ぶかを考えるという問題を航空力学は扱いません。つまり、誰もやったことのないことはその分野の教科書や論文には書いていないのです。
だから他の分野から知識を借りてきたり、自分のあらゆる経験を動員してなんらかの解決策や新しい方法を提案する必要があるのです。
教養としていろいろな学問体系の基礎を頭に入れておくことは決して無駄にはならないのです。むしろ、新しいことや未来の価値を作るためには前提として必要なものなのです。
ビジネスでの成功に勉強は不要か?
商売というものを考えたときに学校で学ぶような勉強は役に立つのでしょうか。これもまた、あなたがどこを目指しているのかによってYESでもありNOでもあると言えます。
ビジネスは知識があるだけでは成り立ちません。むしろ知識よりも情で動く人間関係においては懐に入り込めるような人ほど成功すると言えます。そして、その人間力を生かして他の人から学びを掴む人はさらに成功します。
しかし、誰もがやったことのないビジネスに取り組むときはどうでしょうか。
勉強していない人であれば、当たりがつけられないのでまず失敗する可能性が高いと考えられます。その分野の専門家と議論できるくらいの知識があって始めて、新しいモノが生まれるのだとすると、断片的な知識だけでは間違った方向に進みます。
断片的ではない網羅的な知識には、深みがあります。その深みは一部の知識だけを知っているという物知りではなく、他の分野から援用できる知識を持っているからこそ出すことができます。
良い大学に行くことだけではそこまで掘り下げて考えられるとは限りません。しかし、それくらい勉強した人にとっては、新しいことを考えるだけのバックボーンができている可能性が高いと言えます。
結局はビジネスにおいて何を成功の基準とするのかによって、勉強の価値は変わると考えています。自分が幸せになるだけの成功はおそらく多くの現金があれば満たされるでしょうから、こうした成功であれば必ずしも勉強しなくとも成功する可能性があります。
しかし、多くの人の命を救う発明や宇宙の謎を解き明かしたり、人類の火星移住計画を実行したり、長寿の秘密を解き明かすような大きな目標がある場合は、それはビジネスとして成り立つかも分からない冒険であり、かつ網羅的な勉強が必要になります。
どちらが良いという話はまったくなくて、自分が何に満足を感じるのかを考えたときに自分にとってその学び、その勉強は必要なのかをよく考えれば、人生はよりシンプルになるかもしれません。