従業員との労務問題について社労士さんに相談することも一つの選択ですが、最終的に法律と判例を頼りに判断することが大切です。
例えば「時間外手当の支給をしていなかったがどうしよう?」「懲戒解雇はどのような時にはできるのか?」こうした労務の疑問に過去の判例をもとにすることができます。
法令集や裁判所の検索を利用することもできますが、こと労務問題については、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の提供する「雇用関係紛争判例集」を使うことでより迅速にほしい情報を手に入れることができます。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「雇用関係紛争判例集」https://www.jil.go.jp/hanrei/index.html
時間外手当の算定基礎をどう設定するか?
時間外手当の算定基礎について知りたければ、検索窓に「時間外」と入力してみましょう。すると、(40)【労働時間】割増賃金というページが検索に出てきます。
ここには重要なポイントがまとめられており、またモデル判例として過去の裁判例が紹介されています。
ここには、時間外手当の割増賃金率が25%であるといった一般的な労務が理解しているような事項もありますし、労働基準法に反しない限り、また割増賃金の部分が明確に区別される限り、割増賃金をどのように計算するかについては会社に委ねられているということも分かります。
割増賃金を労基法と異なる方法で算定することや、割増賃金に代えて一定額の手当を支払うことも違法ではない。ただし、①労基法が定める計算方法による割増賃金額を下回らないこと、②割増賃金の部分とそれ以外の賃金部分とが明確に区別されていること、の二つの要件を満たす必要がある。
懲戒はどの程度のものならすることができる?
こういう疑問があるときは「懲戒」と検索窓に入力してみましょう。
(56)【服務規律・懲戒制度等】使用者の懲戒権という記事が出てきました。
(1)使用者は企業秩序を定立し維持する権限(企業秩序定立権)を有し、労働者は労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負うことから、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができる。
(2)使用者が労働者を懲戒するには、予め就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておかなければならない。
(3)使用者が懲戒できることを定めた就業規則が、法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容について、当該就業規則の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていなければならない。
また(63)【服務規律・懲戒制度等】私生活上の非違行為も読んでみましょう。
(1)労働者の私生活上の行為であっても、それが、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような場合には、会社はこれを規制できる。
(2)労働者の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも労働者の行為により具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生があったことまでは要しないが、問題となる行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、その行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価できる場合でなければならない。
つまり、労働者として会社の評価に重大な悪影響を与える場合は会社が規制できること。
そして、労働者が不名誉な行為で会社の信用を傷つけた場合は、具体的に業務を阻害されたとか、取引上の不利益があったことまでは要しないが、問題となる行為の性質、情状等総合的に判断し、悪影響が相当重大であると客観的に評価できる場合は懲戒の対象となる。
社労士さんも基本的には法律とこうした判例をもとに判断をしています。
同じレベルで議論ができるようにしっかりと判断基準となる法的な根拠を自分で素早く探すことができるとより高いレベルで労務を理解できます。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「雇用関係紛争判例集」https://www.jil.go.jp/hanrei/index.html