大学院に進学して研究者として活躍する場所を最初から決めない
大学や学校の研究者は教育者でもある
「研究者になりたい」と思った時に、一番先に思い浮かぶのが大学の先生です。
そして、大学の先生は研究者ですが、同時に教育者でもあります。
大学という組織における仕事というのはただ研究だけではないということです。
大学生・大学院生の教育や、大学経営における業務を担うこともまた多くなります。
大学の先生のように「教授」と呼ばれる高等専門学校(高専)の先生も研究者です。
しかし、高専の場合は大学よりも更に実業に近い専門課程を教育する機関であるため、
研究者としてのウエイトよりも教育のウエイトが大きい研究者です。
研究者のキャリアとして研究所や企業という選択肢
研究所といっても世界各地に官民ありますが、日本の研究員として、特に有名なのは独立行政法人の研究者として働いている研究者でしょう。
例えば、理化学研究所や産業総合研究所といった国の研究所の研究員です。
ここの研究者は仕事として研究を行うことに専念するのが基本ですが、
今は総合研究大学院大学のような大学院課程をもって学生の指導をする場合もあります。
また、企業内にも研究者がいます。
日立やNTT、ソニーやトヨタ自動車のような大手の企業には、研究開発を担当する部署が必ずありますし、各事業部にも研究開発を行う研究者がいます。
最終的には人々を幸せにすることが目的であるならば、
消費者に直接届くような技術開発や創意工夫を凝らすのはエンジニア冥利につきます。
しかし、現代は業績の悪化や研究開発コストの増大という経営上の問題の影響を受けて、その規模を縮小している企業も多くあります。
今後はベンチャー企業や大学の研究室をイノベーション拠点として、連携をしたり、新しい技術を外部から手に入れる大企業も増えていくでしょう。
これから注目の研究者としての研究場所
一方で、企業内研究者が世界最先端の研究をしている分野もあります。
情報科学系の分野ではGoogleやAmazonのから最先端のIT技術が生まれています。
情報科学は自動運転やロボット、遺伝子編集技術などと関係しているため、精密工学や機械工学、そして生命科学との融合も進んでいます。IT企業からこれらの最先端技術が生まれることもあるでしょう。
そして、自然科学の理論や社会科学のようなあまり研究コストのかからない分野であれば、別の仕事をしながら、フリーランスの研究者としても活躍できます。
以外ですが、医師などは自営業者でありながら医学博士号を取得するために個人的に研究をしていたりします。
ちなみに、どこの機関にも属さないフリーの研究者は「インデペンデント・リサーチャー」と呼ばれます。
平凡な研究者はライフプランを考えて選択するのもあり
「平凡」と言ってしまうのは大変恐縮ではあるのですが、つまるところ、
必ずしもストレートに進学してアカデミックポストにこだわる必要はないと思います。
むしろそのまま博士課程に進学して広い世界を知らないことのほうが、よっぽど今の時代では生き残ることが難しいと思います。
もちろん、アカデミックでずっと実績を上げてかつ自分の分野以外のことも勉強されている素晴らしい研究者もいますが、これはそうそうできることではありません。
それぞれの場所に様々な研究者がいますが、その環境をどう活かすかは自分次第です。
例えばマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの石井裕教授は、企業研究者としての時代から研究を続けて、その実績をかわれてMITのポストを得ています。
一度、自分がやってみたいと思ったこと、そして経験が生きるのではと思ったことがあれば取り組んでみたほうが後々他の研究者と差別化に繋がると思います。
大学院に進学してどのような研究者を目指しているのか?
師匠や指導教員しか知らない研究者には良い研究ができない
「研究者になりたい」と思ったあなたは今どういう状況でしょうか。
「まだ中学生や高校生だけれど将来は研究者になりたい」
「今、大学生で研究者になることがずっと夢だった」
「社会人を経験して研究者になるため改めて大学院に進学しようと考えている」
研究者になりたいという1つの願いでであっても、人の数だけその背景は異なります。
ずっと研究者になることが夢でそれ以外は考えてないという人は、そのまま突き進むのもありですが、必ずしも自分がやりたいと思っている研究を続けることが幸せではないこともあります。
「自分はそんなことはない」
そう思っていたとしても、そのまま人生を全うできることはまずないと思います。
ですから、特にまだ学生の皆さんには、「自分が勉強が得意だから」「○○が好きでずっと研究したいから」というだけで選択肢を狭めてほしくないと思っています。
今、少しでも迷っているのであればもう少し時間をおいて、いろんなことを経験してみて、尊敬する研究者の人に相談してみて下さい。
別の仕事をしながらでも論文は書けますし、社会人ドクターという制度もあります。
単純に「研究者になりたい」のではなく、自分の心の奥の方から「研究をしたい!」と思えてから博士課程に進んでも全く遅くありません。
研究者になることを決める前にまず修士課程で研究を考える
前の話とつながるのですが、企業研究者を除いて研究者になるには基本的に「大学院博士後期課程」というものに進学することになります。
すでに修士課程を終えている人は先程の「研究をしたい」と思えてから博士課程に進学するというだけで良いのですが、
まだ修士課程に進学していない人は一度修士課程で「研究」してください。
「研究」というのは端的に言えば「論文を書くこと」ですが、更に深く言えば、自分なりに価値があると考える問題に対して取り組むことです。
大学や大学院の修士課程で学ぶことは単に専門性を高めるというだけでなく、リベラルアーツという学術を俯瞰する視点や、物事を観察する眼を鍛えるという意味があります。
すでに圧倒的な研究成果を出しているのであれば、そのまま研究者としての道は開けると思いますが、そうでない場合はまずは自分が何に興味を持っているのかを知ることが大事です。
フルタイムの修士課程の2年間というのは時間があります。そして、教科書や論文にかかれている内容を「学習」することができます。
修士課程を修了するまでに、これまでに読んだ教科書や論文を自分の視点から課題を見つけたり、批判できれば間違いなく研究者に近づいてるはずです。
研究者に向き不向きはあるのか大学院時代に感じたこと
研究者には間違いなく向き不向きがある
この問いに答えを与えるとすれば、「ある」と答えるのが最も誠実な回答です。
「それでは、自分は向いているのでしょうか」
この問いには、残念ながら私から答えをお伝えすることはできません。
しかしながら、向き不向きは自分で決めることができます。そして自分を信じた先に、正しい道筋を立てることができれば研究者なれるはずです。
ただ、研究者に向いていると思われる要素をあげることはできます。
研究者は答えのない「研究」という宇宙をさまよいながら、自分なりに「仮説」を決めて、その問題に根拠となる説明を付けます。
その説明のための方法は、数学のような「理論」であったり、「実験」であったり、その両方であったりします。
これは実際に自分で「研究」してみればすぐに分かることですが、「問いを立てて、研究の方法論を見つけ、主張を確固たるものにするというプロセス」はとても難しいことです。
これだけでも大変むずかしいのですが、研究をする以上「意味のある研究」を目指さなければ評価はされません。
まず、「なぜ、自分はこの研究をしたいのか」を考えた先に、「この研究を論文にまとめることでどんな意味があるのか」というビジョンがあるはずです。
このビジョンを掲げられるのであれば、研究者に向いています。
研究方法論や必要なスキルはあとから身につければよいのです。
そのための場所、それが先程申し上げた修士課程という場所なのです。
向き不向きといっても優秀だから研究者になれるわけではない
幼い頃から秀才と評されて、そのまま米国の名門大学の博士課程に進学した学生は、
わずか半年で博士課程を中退することになりました。
数学の天才だったある人はスムーズに名門大学の博士号を取得したものの、
大学教員になった後に論文がかけなくなり、アカデミアを去りました。
このような事例は実にたくさんあります。
これは、単純に「アカデミアの競争が激しいので秀才でも勝ち残こるのが難しい」というわけではありません。
多くは「自分でもコントロールできない理由で、研究ができなくなった」り、「自分の自信を喪失するような出来事が起こった」り、「環境が変わり、自分の力を全力で注いできた分野が突然見放させた」りすることから崩壊します。
今、自分が考えている研究というのはとても狭い研究でしかありません。
そのため、自分の立ち位置を俯瞰しないままに没頭した結果、全く見向きもされない場所に立っていたということがあります。
また、どんなに優秀でも周囲からの期待や自意識過剰により自分を追い込みすぎた結果、自分で自滅してしまうということもまたとても多いのです。
逆に凡才でも研究者になれるかもしれない
先生からは普通の学生だと評されていた学生が、卒業後素晴らしい論文を発表したり、
研究者としてのポストを獲得したりすることもあります。
平凡な学生が学者として大成することがあります。
こういうことを言うと、「のらりくらりと人に取り入ってきた」とか「実力ではない」とか批判する人もいます。そしてそういう人がいることもまた事実です。
しかし、大学は研究者でありながら教育者でもあることを踏まえると、特に研究大学ではない大学の場合は必ずしも研究成果が高いから採用するかと言うとそうではないです。
国際的な学会やジャーナルに定期的に投稿している研究者というだけでなく、その研究のインパクトや新しい分野を切り開く野心的な目標設定があるか、そして企業などから研究資金を獲得できるようなコミュニケーション力があるかどうか。
こういったところも求められるというのが事実であるし、これから日本の大学も目指したい理想の研究者像というところだと思います。
つまるところは、「(その分野において)優秀だからと言う理由が必ずしも人生の成功につながるわけではない」ということです。
こうした外部評価もさることながら、研究者として生き延びるためにはまずは自分が精神的なレジリエンスを高めるということ。
そして所属組織に依存しないような、研究資金を獲得や他分野の研究者との交流など専門外のつながりやスキルも伸ばすことで外部評価と自己評価の両面から自分の心を支え続けることが大事です。
生き延びるという視点から見ればいざという時に行く場所がある、研究分野をシフトすることができると考えられる心の余裕が、研究者としての価値を高めます。
さいごに
私がたびたび読み返したい大学院生の心得を引用します。
大事なことをもう一度言う。まず、重要な研究を行い、自分の研究にわくわくしている学生や教授たちと過ごすようにせよ。つまり、良い人に囲まれるようにしなさい。熱情は伝染するのだ。次に頭を整理する方法を学び、大事にしなさい。そうすることで、効率的になり時間を無駄にすることがなくなる。こうすれば、明らかに生産性が上がり、自分の研究活動への熱情も増すだろう。
この言葉を噛みしめるだけのポジティブさをどうか忘れないで下さい。
人生はきっとどうにかなります。なんとかしがみついて、必ず自分が大切にしている価値観を育てて他の人にも良い影響を与えていきたいですね。