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【書評】福祉を変える経営|障害者雇用は人間としての義である

自分は障害のある人が自分のスキル・能力を活かせる場をもっと増やしたいと願って、起業プランを考えては実行したり、有志によるメディアを運営したりしています。

きっかけは「障害者を取り巻く社会システムがあまりに無責任だと感じたから」です。日本の福祉は障害者に対する「措置」であって、障害者を一人の国民として自立させようとする意思が全く見られません。

例えば普段は聴覚障害者の方々と接しています。彼らは少なくとも大学まではたくさんの支援を受けられます。ろう学校であれば手話やFMシステム(電波で補聴器に音声を直接送る装置)などが用いられますし、大学では手話通訳まではなくとも、ノートテイカーのボランティアの方が講義についていることが多いのです。

障害者年金などの制度もある程度は機能しており、行政や教育などでは主にボランティアの力を借りています。

しかし、いざ社会で働こうと思ったときに健常者が大多数の社会で直面する困難はとても大きいのです。人間が生きていくためには働いてお金を稼ぐ必要があります。そして、お金を手に入れるためには人からその労働の対価としての働きを認められなければなりません。

認められるというのは誰にとっても嬉しいことですし生きがいに繋がります。しかし、そのチャンスを障害によって失ってしまっていたらどうでしょうか。政府が障害者雇用を義務化したところで万事解決する問題ではないということです。

障害者雇用義務を果たすより、罰金を支払うことを選ぶという不義

障害者が「働く」という問題に直面したときに、一番の問題はその障害者が労働力となるのかという問題です。障害者と一言に言っても、身体障害者、知的障害者、精神障害者という大きな区分だけでなく、その重複障害もあります。

また、身体障害者の中にも肢体不自由や視覚障害、聴覚障害、嚥下障害、内部障害など様々な障害を抱えた人がおり、大学を卒業している人から義務教育までという人もいます。これだけ多様な個性をもった人を一言で論じることは不可能です。

現状、国の政策として民間企業に対して2.2%の障害者雇用義務が定められています。この雇用率を満たしている企業は50%と徐々に増えてはいますが、まだ目標を充足してはいません。

重い罰則規定がありません。従業員300人を超える企業が雇用率を守らない場合は不足人数一人につき月額五万円を国に納めればおしまいです。多くの企業はお金を納める方を選び、障害者雇用は一向に促進されないのが現状です。

ただ、残念ながら障害者を雇用することにより会社の負担が増えるという認識を持つ経営者も少なくありません。業種にそぐわないなどの理由をつけて、障害者雇用を諦めてしまうことが許されているのです。

確かに健常者を雇用するのに比べると会社側が講じるべきことは多くなります。しかし、これは社会的な「義」ではないでしょうか。自分が障害を抱えて生まれてきたとしたら、そして、将来自分が障害者になることもあります。これをイメージできるならば責任は果たすことが出来るのではないでしょうか。

障害者就労施設の事業では障害者が生きていけるだけの対価がもらえない

民間企業で雇用されている障害者はまだ良い方であると思います。民間企業で働くことができない障害者は作業所と呼ばれる施設で労働をするか、もしくは就労施設で民間企業就職を目指したトレーニングをしています。

今回「福祉を変える経営」では、こうした障害者就労施設・授産施設を、民間企業として成り立たせるにはどうすべきかについて論じています。

一連の共同作業所の「事業内容」を見学して、私は失礼ながらこう思いました。これはとても儲かってないな、と。なぜならば、消費者として欲しくなるようなモノをつくってなかったのです。ということは商売がまともに成り立っていないことになる。

私から見て、共同作業所の方々に決定的に欠けているものがあったのです。それは、作業所を「経営する」という概念でした。自分たちの仕事をちゃんと事業化し、障害者にいきいきと働いてもらい、おカネを儲け、障害者が自立するに足る給料を支払えるよう努力する―。そんな経営の視点が、残念ながら共同作業所にはまったくなかったのです。

これをきっかけにヤマト財団は障害者支援を行い、いくつかの成功事例は少しずつ上ってきてはいるものの、2018年現在に至っても根本的な問題は大きく改善されたとはいい難いです。小倉昌男氏の思いをより多くの人が引き継ぐ必要があるように思います。

以前、労務学会の研究会に参加した際には障害者雇用について、トレーニングを受けた後に民間企業に正社員として雇用される障害者は限られていること、そして、一度就職した後もすぐにやめてしまうなどの定着率の問題があることが課題として残っていることが指摘されています。

経営を行う中で安定した企業活動は重要です。障害者雇用により既存のマンパワーが削がれてしまっては意味がありませんし、安定した企業運営のためには、障害者も責任感を持って仕事をしてもらわなくては、結果的に会社の経営が悪化することにもなりかねません。

障害者就労施設の経営に対する意識改革から始める

私も公における人としてすべきことをするためにまず「その活動が本当に価値あるのか?そして持続可能なのか?」という問いを常に考えます。

身を削りながら人に尽くすことも大事ですが、身を削った結果として身を滅ぼすのは本末転倒です。そして、自分がもし倒れてしまったとしてもその活動が持続し、目的を追求しなければ、単に自分の認知できる範囲で「良いこと」がしたかっただけです。

人が生きるためには、現状お金が必要です。だからこそ、人がお金を支払うに値する事業を運営する必要があり、その活動に貢献してくれている人には正当な対価を支払えなければそれは持続可能ではないと考えます。

ーみなさんがやってらっしゃる福祉の仕事はたしかに立派です。でも、だからといって、いわゆる企業の金儲けが汚いことかというと決してそんなことはないんですよ。
クロネコヤマトの宅急便の仕事では大勢のドライバーがお客様の荷物を運んでいます。宅急便を利用されてご自分の荷物を送ったとき、あるいは人から荷物を受け取ったとき、人はどう思うでしょうか。「ああ、ヤマト運輸はこうやって俺たちからカネを巻き上げて儲けているな」と思うのでしょうか。いいえ。「宅急便は便利だ、助かった」とお客様から感謝されている。私はそう信じています。
人からおカネを巻き上げようなんて動機でビジネスはできません。そんなさもしいサービス、さもしいモノに人はおカネを払いません。あくまでお客さんのためになる便利なサービスやモノを考え抜いて生み出して改良して、結果、お客さんが喜んで使ってくれる。その代わりにおカネをいただく。そのおカネが積み重なって利益になる。これがビジネスです、金儲けです。p.61

障害者雇用を成功させるには単に障害者を集めるだけではダメ

前述のスワンベーカリーのビジネスがなぜ軌道に乗ったのか。障害者六人に対し、それ以上の人数の健常者スタッフをつけたからです。ヤマト運輸の営業所での障害者雇用がなぜ軌道に乗ったのか。それは多数の健常者に混じって障害者が仕事をするという仕組みをとったからです。p.92

見落とされそうな視点ですが、障害者は健常者とともに働かなくてはその力を活かすことも伸ばすこともできないという指摘です。これは間違いなくそうだと感じます。

障害者と言ってもその障害は様々ですし、同じ障害でもその程度は全く異なります。その当たり前の事実をまず周囲の人が認識しているか、理解しているか、理解しようという態度で接しているかどうかが成功の鍵になっています。

健常者でも得手不得手があるように、障害者にはも得手不得手があります。それを前提としたときにどのような働きが出来るのかをお互いにマッチングしなければ、うまく働くことはできないでしょう。

その際に健常者が障害者のサポート役としてついているかどうかで、その障害者自身の能力は変わります。コミュニケーションに困難が残る中で、関係を構築するのは一筋縄では行かないことですが、それを怠ることはできません。残念ながら障害者を集めて単純作業をさせるような残念な障害者雇用促進事例も少なくありません。

作るよりも売ることのほうが大事

だから、つくることと売ること、どちらが大切なのかというと、市場経済においては「売ること」のほうなのです。p.116

何度も繰り返しますが、最終的に収入を増やすには単価×数量を増やす以外にありません。そのためにはサービスを良くしなければならない。経費はかかっても、それはあくまで事業に対する投資であり、必要なことなのです。ときには収入を増やすために経費を増やすことも必要なのです。p.141

売れるモノをつくることは大事です。しかし「売れる仕組みを考える」ことはもっともっと大事なのです。それを肝に銘じておいてください。p.146

ここに小倉昌男氏の経営哲学が現れています。まずはサービスを良くすること。経費は掛かってもそれは事業に対する投資であると断言しています。

最終的な収入を増やすために、売れる仕組みを作るためのお金は惜しまない。非常に長期的な視点で経営を行う意思が感じられます。そして、そのために、早速障害者に対してこれまでどおり月給一万円を支払うのではなく、来月から二万円を支払ってみることを読者に進言しています。

作業所で働いているのは、一般の従業員でなく障害者だから給料はそのつど払える分を渡すだけでいい―こんな考えでは永遠に「月給一万円からの脱出」は見込めません。それではとても「経営」を実行しているとはいえないのです。
なにも、現在月給一万円しか障害者に払っていない作業所にいきなり10万円払え、とは申しません。まず二万円払う、三万円払う。
では、その原資をどこから調達すればよいかといえば、それはまず給料を払って、それから考えればいい。とにかく実行する。一歩踏み出す勇気が必要なのです。
経営というのは甘いものではありません。もうこれ以上は引けない、というぎりぎりのところで、道を選択しなければならないことが何度もある。それが経営です。だから私はいつもこう言ってきました。
「まず実行しなさい。そして実行しながら考えなさい。失敗したら、そのときはそのとき。その失敗を踏み台に、前に進めばいい。やればわかるし、やればできるのです。やならければ、永遠にわからないし、永遠にできないのです」

まず、実行しなさい。そして実行しながら考えなさい。失敗したら、そのときはそのとき。その失敗を踏み台に、前に進めばいい。やればわかるし、やればできるのです。やらなければ、永遠にわからないし、永遠にできないのです。

今、自分ができることはこの言葉を噛み締めて実行することです。