マックス・ウェーバーという社会学者がいる。
彼は近代の科学的進歩を「科学と、科学によって方向づけられた技術とによる知性主義的な合理化」と表現した。
とめどない分業の流れに私達は身を委ねることになると予想した。
近代的生活は合理的であることを前提としている。
経済学は合理的経済人を想定しているし、株式市場は当然に自由市場を想定している。
日常の秩序が保たれるのも様々な科学的手続きによる保証があるが故である。
信号は青になったら渡る。労働成果を定量的に計測する。ビルの構造設計を行う。
日常は科学的手続きに基づいた設計から構成されている。科学バンザイ!
科学は経営にも入り込んでいった。
経営学の祖であるフレデリック・テイラーが科学的管理法を考案したのは20世紀初頭。
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労働者の怠慢や資源の無駄遣いをへらすことで経営効率を高め、経営戦略において金字塔を打ち立てた。
科学的管理法も含めてこうした科学手続きは誰しもが学ぶことができるが、
実際は戦略コンサルタントや税理士や弁護士などの専門家に委ねる。
これこそが近代的な分業である。
でも、ちょっとまってほしい。誰がこの社会の全体を把握しているのかな。
科学は透明性が高いことを保証する。
でも、我々が社会秩序を合理的なものであると想定して良いと信じることになるという点において、
それはだれも何も知らない社会が構築されるということにならないだろうか?
じゃあ、聞いてみよう。「誰か移転価格税制のことを説明できる?」
税務の一分野だが、勤続20年の経理マンでも多くは答えられないだろう。
ものすごく税務の中でもスペシャリスト的な世界だからだ。
それでも、移転価格税制を専門にするコンサルタントは日本に500人以上はいるのだ。
驚くくらい近代の分業化は進んでいる。
でも、確かにみんなマナーを守るし、明日もあさっても安全に生活できる。
そんなことを意識しなくても誰かが秩序を保っている。
だれか「知っている主体」が常に秩序の維持に配慮してくれている。
科学が社会秩序の合理性を保証してくれるから大丈夫なんだ。
生活は科学的根拠をもとに成り立ってるからね。
科学は人間を幸せにしてくれた。透明性の高い社会にしてくれたんだ。
じゃあ次に何をすれば良いのか科学に聞いてみよう。
どうやったらみんながハッピーに生きられるのかな。
どうしたら戦争は無くせるのかな。
どうしたら原子力発電所を安全に運営できるのかな。
私たちはどう生きたいのかな?
- 作者: マルクス・ガブリエル,清水一浩
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ウェーバーが世界の脱魔術化というテーゼによって指摘していたのは、科学が社会秩序の合理性を保証すべき立場に置かれるようになったということでした。しかし、これによって価格はとても応じられない課題を担わされてしまいました。というのも、私たちの共同生活を律する様々な規則は、理性的な基盤にしっかりと据えられるために絶えず取り決め直されなければなりませんが、どんな科学的研究も、規則を絶えず取り決め直すという課題から、私たちを解放することができるようには決してならないだろうからです。
科学のフェティッシュ化は、私たちの抱いている秩序への期待や秩序の表象を、ある種の専門委員会に投影することにしかなりません。しかし、そもそもどのように生きるべきかを私たち自身で決めるという責任を免除してくれる専門委員会など、あるはずがありません。p.209
『世界はなぜ存在しないのか』ーマルクス・ガブリエル