2013年12月5日にこの記事を書いたときは修士課程の学生でした。あれから修士論文をどうにかして書き切り、社会人経験を積み、現在も身を捧げられるような研究ができればどんなに幸せだろうかと考えながら生きています。
焦ってこの記事を読んでいるそこの君も、基本的にここに書いてあることを守れば卒業はできます。修士課程も修了できます。諦めないで下さい。
そして、運良く大学3年生までにこの記事を読むことになったそこの君が一番先にすべきことは、先生との関係を良好に保つことです。真面目にゼミ出ることこれが卒業を保証します。
そろそろ「卒論書かないとなー」「テーマとかまだきめてねーし」「法学部は卒論無くていいよなー」という声が大学の至るところから聞こえてくる季節がやって来ました。
数年前に同じような経験をしたのがこの私ですが、同じように直前に書き始め、訳の分からないスパゲティ論文を生産してどうにか卒業しております。最終的には「学部生の論文などどうせ大したことがかけるはずない」という完全開き直りからスタートしたのですが、そんな開き直りができない方でも間に合うように論文の書き方をお教えします。
まず最初に言っておきたいのは「あなたが問題を解決する必要は無い」ということ。
課題解決型論文は書かない
勘違いしている人が多いのですが、学部生の段階で社会にインパクトを与えるような新発見など到底見つかりません。
誤っても「俺がこの社会の難問について論じてやる!」とは思わないことです。
工学系なら先生や先輩の研究の残り物のような部分を担当したりしているので、まだ世界最先端の問題解決しているかもしれませんが、社会科学系では過去の偉大な学者たちが議論しまくった結果、未だに混沌とした議論空間があるわけで肩を並べることはとても難しいことです。
それでは君たち学部生に先生は何を求めているのでしょうか。
それは「計画通りに提出する」ことと「コピペ論文にならない」ということの2点です。もう少し細かいことを言うのであれば、「適切な引用方法」や「資料の使い方」が理解できているかという人間として、いや研究者として最低限のことを守れるかが最重要です。
これを守れないと東京大学の先生でも、STAP細胞を発見したとしても失格です。
論文を書くことは社会人基礎力の訓練だと思う
どうでしょうか。そう考えれば少し気は楽になりましたか?大学までたどり着いた人ならこのくらいは簡単だと思います。なにより、卒業してから計画どおりに頼まれた仕事、自分がやるといった成果物をちゃんと提出することは社会人の基本です。
それは「おい、あの資料どうした?」と聞かれたら「用意してあります!」と言えるように段取り良く、業務を遂行する基本的な能力です。先生方は大多数の学生が卒業後は働くことを知っています。そのために必要な能力をつけてほしいと思っているのです。
コピペ論文を書かないということ。これは
- 適切な資料収集ができる
- 資料を適切に扱える
という2点を守ることでもあります。
会社で報告書を作成するときも国内外問わず、もっとも有益な情報を、要点を絞って活用する必要があります。これをするためには、どこにどんな情報があるかを知らないといけませんし、外国語能力も必要になります。
また、データには裏付けが必要ですので、どこから引用しているかをしっかり明記することが大切です。卒論を書くために必要な能力は会社でも大事な能力なのです。
有名大学卒業のエリートが集うような、コンサルティングファームや政府機関でも著作権を守らずに、適当な引用をしたことが咎められて大変なことになることがあります。
論文テーマが決められない人のための決め方5ステップ
それでは次に具体的な作り方を説明します。
- 関心のある分野、専攻は何ですか?
- そのキーワードを「Google」「図書館のキーワード検索」「論文データベース」の3つで調べる
- 興味ある関係しているキーワードを10個見つけて同じように調べる
- キーワードを検索したときに引っかかる本を読む、アマゾンで評判を調べる、グーグルで研究者の評判やWebページを覗いてみる。
- 参考文献からさらに文献を広げていく(参考文献が無い、書いてない本はなるべく使わない)
これで下準備は出来ました。
論文に絶対必要な7つの要素
卒業論文のクリアすべき最低ラインとして『社会科学系のための「優秀論文」作成術―プロの学術論文から卒論まで』の著者、政治学者の川崎剛氏は次のような点を挙げています。
- 目的が1つだけで明確なこと
- 綿密に研ぎ澄まされた中心命題が1つであること
- 問題と解決の枠組みがあること
- 中心命題が持つ含意に言及されていること
- 本文がうまく整合的にこうせいされており、上の要素がうまく展開されていること
- 序論部・結論部のあるべき基本的パターンが成り立っていること
- 中心命題の説得力を増やす技術のうち、少なくとも「反論に対応する」と「採用した解決方法を正当化する」という2つは駆使されていること
さらに、川崎氏は以上の点を満たすために手っ取り早く論文を作るのであれば、「古い仮説・新しいデータ」型の論文を作るといいでしょうとおすすめまでしてくれています。
例えば「ロールズの正義論の概念を最先端医療に当てはめてみる」ことや「ベネディクト・アンダーソンの主張した想像の共同体概念からテロリズムの思想を分析する」など色々考えられます。
基本は「あの人が考えたあの理論をこれに使ってみたらどうなるんだろう?」という問いから始まるでしょう。
そうしたら、もっとニッチな部分を探してみましょう。もしかしたらマルクスの考えがテロリズムという思想に影響を及ぼしているかもしれません。そうしたら、最近のテロリズムへの影響はどのくらいあるのかなど疑問が広がります。
例えば、マルクスに関しては様々な研究がなされていますので、マルクスについて少し本を読んでみれば、「これは今議論されているこの部分に影響を与えてるかもしれない」とひらめくかもしれません。
その際に先行研究をしっかり調べると、「マルクスの理論を使ったものはすでにあるけどエンゲルスの理論を使ったものはない」ことがあると思います。
こういう思想分野だと難しいかもしれませんが、システムについての仮説があるような学問分野であれば、当てはめる領域を変えてみたり、最近のデータに変えてみたりすることで新しい研究が生まれます。
ただあまり凝り過ぎると資料が揃わなくなってしまうのでそこらへんの加減が大切です。もし、いいアイデアが浮かばなかったり、先をこされてしまっていたら、指導教官と相談してもう一度テーマ設定から考えなおしてみるといいと思います。
ちなみに私は共産党主義者ではありませんし、テロリズムの研究もしていません。
絶対に外せない論文の型
そうしたら次に型としての基本的な論文を作っていきます。
剣道や柔道だけでなく型というのは重要なモノです。野球選手でもサッカー選手でも一流の選手はどこか似通ったフォームから体を動かします。そして彼らのフォームは流れるようでかっこいいと感じませんか?
これは、型をしっかりマスターしているからです。そこら辺にいるアマチュアゴルファーのださいスイングを真似しているうちはダサいし、スコアも上がること無く一生を終えることになるでしょう。
それを防ぐためにはやはり基本の型に沿った論文を書かなくてはなりません。具体的には以下の様な流れになります。
- なぜこのテーマにしたか
- 先行研究のおさらいとこのテーマの新しい部分の説明
- テーマに関する議論についての様々な論争について
- 先行研究についての詳しい内容、理論の説明
- なぜこの方法で研究したか。テーマを説明するのに最も適切であることを反論を踏まえた上で説明する。
- 同じ分析手法を使った研究との比較
- テーマの根拠・もっともらしい理由付け
- 結論(なぜこうなったか)
- おわりの言葉
こんなかんじで論文は構成されています。これに関しては卒業論文から博士論文、プロの学術論文まで一貫して同じフォームを使います。やはりスポーツでも一緒ですね。
さっそく上の9つのポイントを論文の構成と同じようにおいてみましょう。1から3までが1章、4、5が2章、6、7が3章、8が終章という感じになります。これを作るだけでなんだか論文の全体が見えてきませんでしたか?
そこまでくれば先が見えてきて、論文が書けそうな気がしてきます。あとはポイントごとに文章をまとめて、さいごに並べ替えるだけです。書くパートごとに短い文章を書いていき、最後に並べ替えるだけなので、負担も少なく感じるのです。さあ早速とりかかりましょう!
You can do it!
論文作成についてのさらに詳細な手法に関しては以下の本がお勧めです。
勁草書房
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上記の本以外に以下のサイトを参考にしました。図書館となら、できること 読書猿Classic: between / beyond readers